第26章 会津にて…【薄桜鬼】
逸る気持ち其の儘に辿り着いた東山温泉郷は筆舌に尽くし難い状態であった。
宿屋は殆どが瓦礫と成り果て其処彼処から煙が上がり、人の気配も感じられない。
まさか……まさか………
此の世に生きている人間は俺だけなのではないだろうかと慄く程の中を彷徨い歩く。
……何処に居る?
その時、俺の背後でがたん…と音がした。
驚き振り返ってみると、其処には瓦礫の中から顔を出している男。
煤塗れで一瞬誰だか判別出来なかったが、其れは新選組が逗留していた宿屋の主人だった。
「……御主人!」
俺が慌てて駆け寄ると、主人も驚いた様子で俺の名を呼ぶ。
「斎藤さんじゃねえか!」
「良かった。
御無事で……」
「倒壊を免れた宿に避難してな。
何とか生き残れましたよ。」
くしゃくしゃと顔を綻ばせる主人に安堵しつつ、俺は胸を突き上げる勢いの儘に問い掛けた。
「他の皆は無事なのだろうか?
は……?」
俺の想いなど疾うに悟られているのだろう。
主人は優しい笑みを湛えて何度も頷く。
「ええ……ええ…
皆、無事で御座いますよ。
斎藤さんが此処を離れる前に助言下すった事を守って
避難の準備を進めておいたからねえ。
勿論、も生きておりやす。
生きて、斎藤さんの帰りを今か今かと待っておりますから。」