第26章 会津にて…【薄桜鬼】
旧幕府軍が北上を始めた後は、皮肉な事に会津は落ち着きを取り戻した。
然し、そう遠くない内に会津藩士が籠城する鶴ヶ城陥落の為に新政府軍が動くだろう。
副長が遺していった物の中に何か戦う指針を見出せればと部屋に入ると、其処には副長が着用していた丹前を膝に乗せぼんやりと座り込むの姿が在った。
「あんたか。」
そう声を掛けた所で漸く俺の存在に気付いた様子のは
「あっ……
申し訳ありません。」
ばつの悪そうな顔をして立ち上がろうとする。
「いや、何も謝罪する必要などあるまい。
俺はあんたにずっと礼を言いたいと思っていたのだ。
本当に良く、土方副長の世話をしてくれた。」
俺の言葉に驚いた様な、安堵した様な、複雑な表情を浮かべたは再度ぺたんと座り込み、そして………
突然はらはらと大粒の涙を溢し出した。
「何故、泣く?」
その濡れた大きな瞳に動揺が走る。
の目前に屈み背に手を添えてやれば、は絞り出す様に言葉を紡いだ。
「分かっているんです。
所詮私は《そういう》女なんだって。
歴戦の新選組副長さんと添い遂げたいだなんて
図々しい事此の上無いんだって。
私みたいな田舎者に手を着けて頂けただけでも
有り難く思わなくちゃいけないんだって………」
副長はそんな心算では無かった。
此の会津を……を守り抜いて遣りたいと思っていたのだ。
それでも譲れない己の矜持の為、俺に全てを託して戦いに出向いた。
だが、其れをに伝えた所で何に為る。
恐らく……副長とが再会する事は二度とあるまい。
止まらぬ涙を零れるに任せ、副長の背中を追う様に窓の外遠くへ視線を漂わせる。
そんな哀しい姿を、俺は見ていて遣るしか出来なかった。