第26章 会津にて…【薄桜鬼】
「だけど、せめて……
最後のお別れくらいさせて欲しかった。
歳さんのお顔を見て、『さよなら』を言いたかった。」
独り言ちる様に切なく響くの声。
副長はに何も告げずに会津を離れたのか?
其れには驚きはしたものの、副長の想いは分からなくも無い。
副長はの涙を目にしたく無かったのだろう。
泣かれて仕舞う事で、己の決意が揺らぐ事を恐れたのだろう。
生半可に再会の約束など出来なかったのだろう。
どうした所で結局は泣かせて仕舞うのであれば、副長の選択はへ与える疵を一番浅くさせるものだったのかもしれない。
此の痛みを癒すのは日日薬しか無い。
時が経てばきっといつかは忘れられる。
…………それとも、副長以外の男に愛されれば。
「ふふ……
往生際が悪い女ですね、私。
ごめんなさい。
明日にはちゃんと笑いますから……
今だけは……」
は今だって笑っている。
だが……俺の目を真っ直ぐに見つめ微笑みながら、その頬には絶え間なく涙が伝っているのだ。
堪え忍び、涙を流して笑う此の女が美しくて可憐しくて……
ずっと心の奥底に抑え込んでいた感情が突き上がって来て……
俺の理性は簡単に崩壊した。