第26章 会津にて…【薄桜鬼】
現在、新選組が逗留しているのは会津藩御抱えの湯治場である東山温泉郷。
鳥羽伏見から敗走し、甲州、宇都宮という死線を越えて、会津藩主松平容保公のお膝元まで辿り着いた。
新政府軍との圧倒的な兵力差に打ち拉がれた事も事実ではあるが、何よりも一番の打撃であったのは……
新選組はこの間に近藤局長を亡くしている事だ。
そして其れだけでは済まず、江戸で療養していた総司も近藤局長を追う様に涅槃へ旅立って仕舞った。
戦争なのだ。
俺達は、戦っているのだ。
故に人は死ぬ。
だからとて、左之と新八が新選組を去った後、近藤局長を亡くし総司まで喪い……俺ですらが気が狂いそうになった。
であるなら副長としてみれば尚更だろう。
宇都宮で流れ弾に足首を撃ち抜かれた副長を引き摺る様に連れて此所で湯治を始めた当初は、己を責め続け荒む副長から目が離せなかった。
いつ近藤局長や総司の元へ向かって仕舞うやも……と。
だがしかし、そんな副長をこの現実へ引き留めていてくれるのは、新選組としての誇りでは無く、この温泉郷で湯治客の世話をする女中連中の一人……
だった。
は確かに愛らしい女だが、副長が京で相手にしていた様な洗練された女達とはまるで違う。
言葉は悪いが所謂『田舎娘』という体だ。
如何にも健常そのままの紅い頬に、純朴で屈託の無い弾ける様な笑顔。
そして働き者という形容を此れでもかと体現する如く、此方が驚く程に甲斐甲斐しく副長の世話を焼いた。
身も心も限界まで脆弱であった副長にしてみれば、そんな可憐しいに縋って仕舞うのは是非も無い。
それからに取っても『土方歳三』という男は此れ迄に出逢ったどの人間よりも魅力的なのだろう。
そんな男に求められたのならば拒む筈も在るまい。
此の二人を見ていれば、俺は時の流れを願って仕舞うのだ。
どうか……暫くは此の儘に、穏やかに過ごさせて欲しいと。
せめて副長が再び、奮い起てる其の時まで。