第23章 Sad Monster【ドリフターズ】
女の冷たい身体は何故だか存外に抱き心地が良く、俺も珍しく熟睡していた様だ。
「あの……あの………」
耳元で聞こえるか細い呼び声に渋々目を覚ますと、腕の中で女が俺の顔を見上げていた。
ああ、気が付いたのだな。
まだ顔色は白いままだが、頬には僅かに赤味が差している。
これならば今直ぐに命がどうこうという事も無いであろう。
そして俺は先ず、女を抱く左腕に力を込め、右手でその愛らしい顔の下半分を覆った。
「騒ぐなよ。
いや、騒いだ所で誰もお前を救いに来やしないが
俺が面倒臭い。」
お互いが素っ裸で抱き合っているこの状況は、俺が襲ったと思われても致し方ないだろう。
当然大声で騒がれる事を想定していたが、女の目には恐怖や動揺は全く浮かんでおらず、無垢な視線で俺を真っ直ぐに見つめこくこくと頷く。
この様子なら騒ぎ出す事もないであろうと女の身体を手放すと、女はそのままその場で三つ指を着き俺に向かって深々と頭を下げた。
「救って下さって有難う御座います。」
これには俺の方が驚き息を飲む。
「………は?」
「私を救って下さったんでしょう?」
確かに俺は女を死なせまいと身体を温めたのだが、まさか開口一番に礼を言われるとは思わなかった。
見知らぬ男に素っ裸で抱かれていた癖に、この度胸は何なのだ?
何なのだ……この女は。
この女は……何者だ?
そんな俺の考えを悟ったのか……
女は頭を下げたまま名乗る。
「私は薩摩藩十一代藩主、島津斉彬が第五息女……
と申します。」