第22章 其の女【薄桜鬼】
一度だけきゅっと唇を噛み締めたはふらりと立ち上がり、総司と斎藤に向かって
「貴方達の大切な上役さんを一寸お借りするわね。」
と、柔らかく微笑む。
そして俺の首に両腕を巻き付け背伸びをすると唇を重ねて来た。
瞬間男三人が息を飲んだが、俺は其の儘目を閉じての腰を抱き寄せ更に深い口付けを交わす。
若気る総司と顔を紅潮させて固まる斎藤を尻目に、俺とは散々に舌を絡め合った。
それから其の行為を終らせたのもの方だ。
俺の腕から逃れる様に身体を離すと真っ直ぐに視線を向けて、清々しい程に笑って見せる。
只、ぽろぽろと涙を溢しながら。
「さようなら。
…………副長さん。」
そう言って凛とした足取りで土蔵を出て行くの背中すら見送って遣れなかった俺は、やはり守られて然る可き情けねえ男なんだと痛感させられたもんだ。
「此れで良いの、土方さん?」
両手を頭の後ろで組んだ総司が問い掛ける。
「はあ?
良いも何も手前ぇ等が俺に任せるって言ったんだろうが?」
「そうじゃなくて。
《土方さんが》此れで良かったの?」
総司と斎藤の訴え掛ける様な視線を受け止めながら、俺は小さく息を吐き口角を上げた。
「良いんだ。
………此れで、良い。」
「ふーん……
大人って難しいなぁ。
僕と一君には理解出来ないや。」