第22章 其の女【薄桜鬼】
「やっぱり私なんかが幸福を手に入れちゃ
駄目だったんですよねぇ。
そう気付いたら……
彼奴を刺してました。
どうせ幸福に成れないのなら……
自分の身なんてどうなったって良いから……
せめて其の人を守りたくて………
《今度こそ》大切な人を守りたかった。」
突然にの大きな瞳から一筋の涙が溢れ落ちる。
は一言足りとも俺の名を出さなかったが、傍で聞いている総司も斎藤も分かっているのだろう。
二人のを見つめる目には紛れも無く慈しみが浮かんでいた。
「………もう良い。」
俺はゆっくりと立ち上がると、
「借りるぞ」
そう言って総司の腰から清光を抜く。
そして峰をの背に当て差し込むと、上半身を拘束している荒縄を一太刀で取り払った。
「何処へでも行っちまえ。」
「でも……私は人を殺めました。」
「俺も此の二人も其の現場を見た訳じゃねえ。
見廻組が新選組に手前ぇの身柄を渡した時点で
無罪放免と同じなんだよ。」
多少無茶な言い分だと思ったが、総司も斎藤も何も言及しない。
どうやら俺の想いを汲んでくれたみてえだ。
「故郷に帰るも京に残るも、手前ぇの好きにしやがれ。
あの店を続けてみればお前が言う其の大切な人ってのが
また現れるかもしれねえぜ。
但し………」
「但し…?」
震える声で俺の言葉を繰り返す。
そんなの頬に残る乾いた返り血を親指で擦り取ってやりながら俺は続けた。
「死ぬ事は赦さねえ。
此の先、何が有っても絶対に生き抜け。
………約束だ。
良いな?」