第22章 其の女【薄桜鬼】
そう……其れは正しく俺自身だ。
どうして俺に甘えてくれなかった?
只一言『助けてくれ』と言ってくれなかったんだ、?
悲痛に歪む俺の顔をじっと見上げているは、突然気が抜けた様にふっと表情を柔らげると淀み無く言い放つ。
「守りたかったんですよ。
今度こそは。」
…………守りたかった?
は何を守りたかったって言うんだ?
「自分が脅されるだけなら何て事無かった。
引っ叩かれたって屈しない自信もあった。
でもね、腐った奴ってのは本当……
とことん腐ってるんですよねぇ。」
此所で一つ大きく息を吐いてからは続けた。
「私、大切な人が出来ちゃったんです。
其の人……
本来であれば私みたいな女を相手にしちゃいけない人で……
其れなのに私を受け容れてくれた。
嬉しくて嬉しくてね。
もう自分を誤魔化しながら生きなくてもいいんだって。
そうしたら彼奴……
今度は其の人をねたに強請って来た。
私みたいな女と関わっている事を世間に吹聴して
其奴の顔を潰して遣るぞ……何て言ってね。
其奴の評判を地に貶めて京に居られなく為てやる……ですって。」
が守りたかったってのは………
俺か。
「其の人は揺らぎ無い矜持を持って戦っている人。
其の人と其の人の仲間達を恨んだ時も有ったけれど
京で暮らす内に、誰も間違っていないんだって……
皆が己の信念を貫いた結果なんだって……
そう思え始めていたのに………」
は新選組の事を赦していたのか。
其の上で、俺と生きて行きたいと思っていたのか。
唯々時間の流れを悔やんで仕舞う。
俺がもっと早くお前を見付け出せていたら。
俺はそんな下衆野郎の矮小な脅しに屈する男じゃねえと分からせてやれていれば。