第22章 其の女【薄桜鬼】
「あーあ……
嫌われちゃってるの、土方さん?
色男の土方さんが女の人に嫌われるなんてさ、
珍しい事もあるんだね。」
何時も通りの小生意気な言い種だが、緊迫した此の場を和ませてくれる様な総司の言葉に俺は感謝した。
「新選組は世間で囁かれているような無法集団では無い。
故に副長はあんたを傷付けたりはせぬ。
二人になる事を恐れる憂慮は無用だ。」
そして斎藤はやはり生真面目にを説き伏せる。
「そうじゃ……なくて…」
何かを言いた気で、しかし其れを口に出すのは許されないとでも言わんばかりのの態度に、俺の方が覚悟を決めた。
「総司も斎藤も其処に居ろ。」
「えー……?」
明白に面倒臭いという態度を隠しもしない総司に苦笑してから、俺はの目前に片膝を着いた。
「言いたい事は無えのか?」
「別に……」
俺の視線を避けるように顔を背けるの顎を掴んで引き寄せ、真っ直ぐに見つめ合う。
「何故、其の男を殺した?」
「何故って……
此所で世の為人の為、京の安寧を護りたくて…なーんて
高尚な事が言えれば格好良いんでしょうけどね。
答えは……そりゃ憎いからですよ。
理由なんて其れ以外にありません。
所詮は只の下世話な話です。」
其の憎い男の血に塗れて強がるを見せ付けられりゃ、俺の胸はぎりぎりと締め付けられて仕舞う。
何故……どうして……
今ではもう遅過ぎる文句が、次から次へと湧いて出た。
「女だてらに自身で手を下さなくても……。
手前ぇを救いたいと言う《男》だって居た筈だ。」