第22章 其の女【薄桜鬼】
え……俺が斬ったのかって?
さあ、土方さんが斬ったのか、土方さんじゃない他の隊士だったのか、私には分かりません。
でも《誰か》なんてどうでもいいんです。
私にとってあの人を殺したのは《新選組》……
其れが全てですから。
ええ……勿論怨んでますよ。
怨み骨髄に入るとはこの事ですよねぇ。
彼は新選組に斬られる程、大人物でも無かったのに。
それでもね、彼が残してくれた僅かな分と、私が必死で貯めた分、それを元手にこの店を始めて漸く軌道に乗ったと思った頃……
新選組の副長さんが常連になるなんてね。
何の因果かって気が狂いそうになったわ。
お天道様はそんなに私が憎いのかしらって。
だからって私に何が出来る訳でも無くて、只々気を落ち着かせて過ごして来たんです。
ああ……何とか此の儘、穏やかに生きて行けるかもって漸く思えていたのに………
そうしたら今度は、あの人が庇って図々しく生き抜いてる上役とやらが店に来た。
其奴、本当に反吐が出る程に図々しくて………
何処で土方さんが常連だって聞き付けて来たのかしら。
この私に土方さんと懇ろになって、佐幕派の情報を横流ししろ……だって。
もう勘弁して欲しいもんですよ。
私は唯、穏やかに……あの人と穏やかに生きて行きたかっただけなのに。