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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第22章 其の女【薄桜鬼】


こんな私でもね、薩摩に居た頃に将来を誓い合った相手が居たんです。

その人は薩摩藩士で……

其れなのに野心や出世欲なんか全然持ち合わせていない穏やかで優しい人だった。

お武家の息女を嫁に貰う事だって出来る立場の人だったのに、親兄弟も居ない卑しい身分の私と共白髪まで…なんて誓ってくれた。

其の彼が、己の武功の為に鼻息荒く入洛する上役の随伴に選ばれたと決まった時には嫌な予感しかしませんでしたよ。

それでも「薩摩に帰ったら直ぐに祝言をあげよう」という約束を信じて待っていました。

ずっと、待っていたんです。

でもね……嫌な予感って当たるもんなんですよねぇ。

只管待ち続けていた私の元に届いた報せは………

彼は京で襲撃された上役を庇って斬られた……と。

その上役は命辛々逃げ果せて無事でしたが、彼は即死だったそうです。

最期に彼の顔を見る事すら出来なくて、然も所帯を持っていた訳じゃ無い私の元には、遺髪も形見も何一つ届けられなかった。

私に遺されたのは、彼との思い出だけ。

彼の声や匂い、温もり……たったそれだけ。

そんな時が経てば薄れていって仕舞う物しか無いのなら、せめて彼が亡くなった場所で暮らしたかったんですよ。

あの人は未だ此処に居るかもしれない……

なんて馬鹿みたいな夢を見ていたかった。

あ……そうそう。

大事な事を言ってなかったわ。

彼を……私の最愛の人を斬り殺したのはね………

新選組隊士なんです。
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