第22章 其の女【薄桜鬼】
「あら。
いらっしゃいまし、土方さん。」
「ああ……
いつもの、くれるか。」
「はい。
毎度どうも。」
時間を見つけては頻繁に此の店に通って仕舞う俺も大概だ。
自分自身どうして此所までに拘っちまうのかも分からねえ。
何の変哲も無い小さな小料理屋、立地も悪きゃ特段値打ちな訳でも無い。
しかし、何故だかいつも込み合っていた。
そして客の殆どが野郎だ。
明らかに狙いなんだろう。
が料理を運んで来る度に、熱心に口説いている姿を見せ付けられる。
俺が店に通い始めた頃には、そんな野郎共も一様に諦めの表情を浮かべた。
《彼の土方歳三》相手じゃ、も早々に堕ちるだろうってな。
だが何時まで経っても俺の手が付かない事に気付いた輩は、未だ己にも希望があると思ったのか、への誘いを再開しやがった。
今夜も野郎共が牽制し合う視線の交差する中に居る自分が居た堪れねえよ、全く。
少し遅い時間だった事もあってか、を口説き損ねた野郎共は肩を落として一人二人と店を出て行く。
ふと気付けば残りの客は俺一人になっていた。
「今夜はこれで終いか?」
「そうですね。
もうお客も来ないでしょうし。
あっ……
でもゆっくりなさって下さいね。
新選組の副長さんを追い帰したりはしませんから。」
ふふ…と可憐に笑うに鼓動が跳ねる。
空になっていた湯呑に茶を注いで立ち去ろうとするに声を掛けた。
「なあ……。」
「何ですか?」
立ち止まって振り向いたの視線がじっと俺を見つめる。
「お前……
旦那は居ねえのか?」
お互いの視線が絡み合い、少しの静寂が流れた後
「居ませんよ。
私は嫁き遅れの大年増。」
そう言っては自嘲してから一言付け足した。
「私ね……
天涯孤独の身なんです。」