第22章 其の女【薄桜鬼】
市中の端にぽつりと在る質素で侘しい小料理屋。
偶々通り掛かって見付けた店だが、味付けが濃く中々に旨い料理を出す。
京の付いてるんだか付いてねえんだか分からない薄味に辟易していた江戸育ちの俺には有難い店だったんだ。
その小料理屋は女が一人で切り盛りしていた。
年の頃は二十半ばか?
もしかすると俺よりも少しばかり年長かもしれねえ。
薄幸そうな佇まいに妙な色気を醸し出した、変に艶っぽい女だった。
二度三度とその店に通う内に『この女を抱いてみてえ』と思う様になり、俺が一寸色目を使って甘い言葉の一つや二つ囁いてやれば直ぐに堕ちると考えた。
それなのに女は気付かないのか……
いや、気付いているのに適当に遇っているのか、俺には指一本触れさせやしない。
先ずは自尊心の崩壊。
それから欲求の増長。
女なんか腐る程に居るんだ。
しかも殆どの女は俺に抱かれたいと肌を晒すのに……
何故か俺は、触れる事も許さねえこの女を諦める事が出来なかった。
《此の土方歳三》が堕とせない女。
《其の女》の名は『』という。