第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
優里の身体に回した腕に力を込めると、優里も俺に身体を預ける様に擦り寄って来る。
「……許してくれるの?」
「許すも何も……
妹が犯した罪は兄貴が責任取るもんだろ?
だから俺もお前と一緒に苦しむよ。」
優里はくるりと身体を反転させ、真っ直ぐに俺の目を見て言った。
「ありがとう……兄様。」
そして、気丈に微笑む。
俺はそんな優里の額に、自分の額をこつんと合わせた。
「お前はこんな時でも泣かないんだな。」
「泣かないよ。
だって後悔なんてしていないから。」
「俺の方が泣きそうだよ。」
「後悔……してるの?」
「………いや、してねえ。」
「じゃあ泣かないで。」
優里の小さくて柔らかい両手が俺の頬を包む。
「強い女だな……俺の妹は。」
言いながら一層強く抱き締めると、優里はまた小さく笑った。
今はきっと……俺も優里も泣いている。
只、涙を流していないだけなんだ。
二人共、もう会わない……もう会えないって分かっているから、だから涙は流さない。
「お前は親父さんの所へ帰れ。」
「うん。」
「俺は大丈夫だから心配すんなよ。」
「うん。
私も大丈夫だから心配しないでね。」
「ああ。」
そして抱き合ったまま……
額を合わせたまま……二人共に目を閉じた。
「今夜だけ……朝までこのままで。」
俺がそう呟くと、優里はこくんと頷いてから言った。
「最後にもう一度だけ……人の道を外れても良いかな?」
「……何?」
「今でも貴方を愛してる。」
今度は俺が笑った。
「ああ……大丈夫だ。
今日だけは御天道様も見逃してくれる筈だから。
優里……俺も愛してる。」
こうして俺達は東の空が白むまで抱き合って眠り、まだ市中に早朝の冷たい空気と静けさが漂う中……別々の方向へ歩き出した。