第19章 憧憬なんかじゃない【恋愛幕末カレシ】
誘われるように……肩を抱かれたまま慶喜さんの部屋へ。
以前も何度かお邪魔した事がある部屋だけど、今は状況が状況なだけに自分が酷く緊張してるのが分かる。
そして部屋に入って襖を閉めた途端に、私は慶喜さんの胸と腕にすっぽりと包まれた。
「……
会いたかった。」
慶喜さんの熱を孕んで掠れる声に
「私も…です。」
震えた涙声で答える。
暫くはそのままでお互いの温もりと匂いに酔い痴れていたけど、不意に慶喜さんは私の身体を押し返し真っ直ぐに視線を絡ませて来た。
「には最初に伝えておかねば為らないね。」
「………何を、ですか?」
私がコクンと喉を鳴らすと、慶喜さんの目は少し切な気に細められる。
「私はもう、権力者では無くなった。
何者でも無い唯の男だ。
此れから先、に辛苦を与えて仕舞うかもしれない。
それは理解出来るかい?」
私は無言で小さく頷いた。
「だから無理はしなくて良いのだよ?
君と出会った頃の私と今の私では雲泥の差があるのだから……
私を見限った所で君を責める人間は誰も居ないし、
何なら晴明に頼んでもう一度、元の時代へ…っ……」
背伸びをした私の唇が、慶喜さんの唇を塞ぐ。