第19章 憧憬なんかじゃない【恋愛幕末カレシ】
大政奉還……幕府が朝廷へ政権を返還した、言わずと知れた日本の一大事。
既に徳川幕府は崩壊している。
じゃあもう、慶喜さんは将軍じゃないんだよね?
将軍じゃなくなった徳川慶喜はどうなったんだっけ?
今になって、ちゃんと調べておかなかった事が悔やまれる。
もう慶喜さんに再会する事は出来ないの?
逸る鼓動を抑え切れず、帝へ縋るような視線を向けると……
「慶喜は京都に居る。」
帝の言葉にドクンッ…と心臓が跳ね上がる。
慶喜さんはこの京都に居るの?
「が居候しておったあの屋敷に幽閉されているのだ。」
「幽閉!?
どうしてそんなっ……」
私は噛み付くように問い掛けた。
「幕府は現在の新政府にとっては政敵だった。
その幕府の頂点が慶喜であったのだから仕方有るまい。」
「だってそれは、慶喜さん自身が望んだ立場じゃないのに!!」
「……落ち着いて。」
晴明さんが私の背中を宥めるように擦ってくれたけれど、私は悔しくて哀しくて今にも大粒の涙が溢れ落ちてしまいそう。
「案ずるな、。
幽閉と言っても、決して監禁状態では無い。
慶喜は二百六十年続いた徳川幕府を最期まで背負い、
一滴の血も流さず見事な引き際を貫いた将軍なのだ。
新政府の中にも、そんな慶喜に敬意を払う者は大勢居る。
幽閉という体裁ではあるが、実際はかなり自由な様だぞ。」
「良かった……
慶喜さん……」
「幽閉される前には俺の所に挨拶に来たが
憑き物が落ちた様な良い顔をしていた。
きっと今は漸く数多の柵から解き放たれて
穏やかに過ごせているだろう。」
良かった。
本当に良かった。
どんな時も周りの人達を気遣って、自分を押し殺して来た慶喜さん。
そんな慶喜さんが穏やかな気持ちで今を生きていられるんだって思ったら、こんな嬉しい事はないよ。
さっき浮かべた悔し涙が嬉し涙に変わって、私の頬を一筋伝った。