第19章 憧憬なんかじゃない【恋愛幕末カレシ】
それからの1ヶ月間は慶喜さんの姿を見掛ける事は無かった。
彼が今、どこに居るのかすら分からない日々。
明白ではないけれど、避けられているのかも……そう感じた。
そうなればもう、私の進むべき道は選択するまでもない。
元の時代へ戻る前夜には、晴明さんに連れられて帝の所へお別れの挨拶に伺った。
「今からでも俺の女になる気は無いのか?
直ぐにでも骨の髄まで愛でてやるぞ。」
相変わらずの直球過ぎる口説き文句に少し呆れて、でも一見傲慢で横暴に見えるこの人は実は素直で真っ直ぐな人なんだともう分かっている。
宥め賺したり、諂ったり……そんな卑屈な態度を見せずに真摯に向き合えば、心からの言葉と行動を顕してくれるんだ。
慶喜さんという絶対的な存在が無かったら、私は帝を好きになれていたかもしれない……
そんな風に思った。
そして私は晴明さんと一緒に現代へ………。
たった3ヶ月離れていただけなのに、もう何年も経っているような気がする。
やはりこの時代は時間の流れも速いのかもしれないな。
最初に晴明さんと出会った神社で今度はお別れ。
自分で決めて戻って来た筈なのに、どうしようもなく名残惜しくて………
でもそれを振り切るように、私は晴明さんへあの不思議な懐中時計を返した。
「ありがとう、晴明さん。
…………楽しかったよ。」
「うん。
元気でね、。」
「………晴明さんも。」
こうして私と晴明さんは背中合わせに歩き出したけれど……
「ねえ、!」
突然に呼び掛けられて振り向くと、晴明さんは真っ直ぐに私を見てた。
「忘れないで。
俺は三ヶ月毎にこの神社に居るから……
だから、絶対に忘れないでね!」