第19章 憧憬なんかじゃない【恋愛幕末カレシ】
「私の所為なのか……
やはり昨晩の口付けの所為かい?
を傷付けて仕舞ったんだね?
本当に申し訳無い。」
「……違…ます。」
「でも、しかし……」
「慶喜さん………
江戸に…行ってしまうんですか?」
涙でグシャグシャになった顔を見られるのは恥ずかしかったけど、私は慶喜さんの目をじっと見つめて問い掛ける。
さっきは知りたくないと小部屋を出たのに、でもどうせ最後通告されるなら慶喜さんの口から直接聞きたかったんだ。
その目は動揺したみたいに一瞬だけ見開かれたけれど、また直ぐに柔らかく細められ……
「………知っているのか。
晴明に聞かされたのかな?
全く…晴明の情報網には敵わないね。」
呆れた様子で苦笑した慶喜さんはその後、私の髪を撫でながらゆっくりと丁寧に語ってくれた。
「私が江戸へ行くかは……まだ分からない。
けれど将軍になるという責は引き受けねばなるまいな。
家康公以来、二百六十年続いた徳川を投げ出す訳にはいかない。
私に出来る事が有るならば、粉骨砕身で力を注いでみようと思う。」
これから先、徳川幕府は破滅の一途を辿る。
それは未来から来た私だから知っている事だけど、でもこの時代の人達だって薄々は感じている筈だ。
慶喜さんだってきっと………