第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
そして………
俺と時尾が辿り着いた先は東京。
とても斗南と同じ日本だとは思えぬ程、人で溢れ返った土地だった。
其処で俺は藤田五郎と名前を変え、警視庁が募集する警察官に志願した。
その道を選んだ理由は只一つ。
警察官に採用されれば官舎に入居出来るからだ。
落ち着いた場所で時尾と暮らす……
今の俺が望むのは其れだけだった。
剣術の腕を買われてか、俺は内務省警視局で警部補にまで昇進する。
この時、斗南を出てから三年の月日が流れていた。
「今帰った。」
時尾と所帯を持って以来、続いている挨拶。
だが今は時尾からの返事は無い。
斗南での最後の夜に壊れてしまった時尾は現在もそのままだ。
流石に自分の身の回りの事は卒無く熟す様には為ったが、今もその瞳に俺の姿が映る事は無い。
「腹が減っただろう?
直ぐに夕飯にするからな。」
そう言って髪を撫でてやっても、椅子に腰掛けてぼんやりとしていた。
食事を終えて、何時も通りに時尾を寝台へ寝かせる。
目を閉じ、静かな寝息を発てる姿に顔が綻んだ。
ずっと此のままでも構わない。
心からそう思う。
時尾は何処に行くでも無く、官舎の小さな部屋で毎日俺の帰りを待っていてくれるのだから。
それなのに……時折どうしようもない焦燥感に煽られる俺は、何と矮小なのだろうか。
時尾に触れたくて、触れて欲しくて……
笑って欲しくて……
俺の名を呼んで欲しくて………
渇望すればする程に身体の熱を上げる自分が悍ましい。
何故だろう………
今夜は腹の奥底から湧き上がる欲望が抑えられないのだ。