第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
こうなって仕舞えば仕方が無いと、先ずは隣家で時尾の身形を整える。
今の時尾はまるで人形だ。
全裸に剥いて、髪も身体も顔も……俺の手で全てを丁寧に濯いでもぴくりとも動かなかった。
ぐったりと俺に身を委ね、為れるがまま。
それでもその肌の温かさを感じれば……
そして俺の手を拒まないでいてくれる事だけで、俺は充分に嬉しかったのだ。
再び時尾の身体を大切に抱いて隣家を出てみると、其処には集落中の人間が集まっていた。
気配も感じさせず、言葉も交わさず、暗闇の中さくさくと手際良く動き回る住民達に俺は心底驚き、そして俺と時尾を本気で救おうとしてくれているのだと合点が行く。
ああ……そうであるなら俺も腹を括らねばな。
俺の身などこの先どうなろうと構わんが、時尾を独りにする訳にはいかない。
そう、時尾を連れて何処までも逃げ切ってみせよう。
二人一緒であるならば、何も恐れる物など無いのだから。
「時尾……立てるか?」
胸に抱えた時尾をそっと下ろしてみれば、確りと自分の足で立ってくれた。
その姿を見届けた内儀は、またぼろぼろと涙を零し
「時尾ちゃん……ごめんねぇ。
今迄、本当にありがとう。
元気で……
元気でね……」
抱き締めた時尾の身体から暫く離れようとしなかった。
その後には、この場に集った住民達から半ば無理矢理に金を渡された。
恐らく各人の家にあった全財産を掻き集めて来たのだろう。
薄汚れた僅かな貨幣であったが、其れ故にどれ程の大金よりも重く感じる。
「此れっぽっちで済まねえが、何かの足しにしてくれ。
…………息災でな。」
そう言って俺を気遣う住民達に何度も何度も頭を下げると、俺は時尾の手を引いて着の身着のまま斗南を後にした。