第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
その言葉に振り返って見れば、涙に濡れた内儀の視線が真っ直ぐに俺を射貫いていた。
「時尾ちゃんを連れて逃げるんだ。
幾ら斎藤さんに咎が無いとは言え、
役人三人を斬ったと為れば只では済まない。
だから今の内に遠くへ逃げちまいなよ。」
「ああ、此奴の言う通りだ!
この骸は俺達が片付ける。
何、この集落の皆で手分けして遣れば大して手間も掛からねえ。
その後は全員で知らぬ存ぜぬと口を噤んじまえば
時間だって稼げるさ。」
内儀と同様に、旦那の方も勢い良く捲し立てて来た。
夫婦の突飛な提案に心が揺さ振られる。
だが俺が為した罪をこの夫婦に……
否、集落の皆に押し付けて自分だけ逃げるなど……
「……そんな…訳には……」
時尾を腕に抱えたまま小さく頭を横に振る俺に、夫婦は駆け寄り膝を着く。
「いいんだよ、斎藤さん。
あんたは俺達の為にずっと戦ってくれた。
今だって俺達は時尾ちゃんに護られてた。
この役人共が消えた所で、
喜ぶ奴は居ても悲しむ奴なんか誰一人居ねえ。
だからさ……斎藤さん。
あんたと別れるのは寂しいけど……
最後くらい俺達に恩返しをさせてくれ。」
穏やかでありながら、でも揺るぎない声色の旦那の隣で内儀も力強く頷いた。
「早く時尾ちゃんを綺麗にしてやっておくれよ!
何時までもそんなんじゃ可哀想じゃないか!
私ん家でさ、身体を洗ってやっとくれ!
さあ、早く!!」
確かに腐った役人共の血に塗れたままでは、余りにも時尾が可哀想だ。
……時尾自身にその意識が無いとしても。
ばたばたと忙しなく動き回る夫婦に着替えを持たされ、時尾を横抱きにした俺は追い出される様にして家を出た。