第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
「時尾………」
無様に転がる骸の中心で、着物を開けたまま茫然と座り込む時尾に近付く。
ああ……俺はまた時尾を穢して仕舞ったな。
初めて時尾に出会ったあの夜も、時尾は血に塗れていた。
そう、俺が斬った時尾の兄の血に……。
今も全身を赤く染め濡れた時尾の身体を、俺は膝を付いて躊躇無く抱き寄せる。
「済まない……
済まない……時尾…」
何度詫びても、時尾はまるで反応を示さない。
泣きもせず喚きもせず、俺の身体を抱き締め返してくれもせず………
只、呼吸しているだけだ。
俺は確かに幸福だと言った。
責のある職務に就けている今が幸福だと。
時尾はそんな『俺の幸福』を護りたかったのだろう。
だがそれは、時尾が俺の傍らで笑って居てくれればこそだ。
時尾の笑顔が消えて仕舞うのであれば、こんな下らない幸福など真っ先に捨ててやったのに。
「俺の名を呼んでくれ。
時尾、頼むから……
俺を…その目に映してくれ…」
震えて仕舞う声でそう懇願しても、時尾の目は虚ろに漂うだけだ。
見えていないその大きな瞳に、もう俺の姿は欠片も映ってはいない。