第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
この腐った役人共が時尾を穢すに至った動機は、やはり藩内で重用されている俺への僻みからであったようだ。
確かに其れは俺自身も明白に感じていた。
新選組として会津藩と共に戦い、幕府軍共々新選組が会津を捨て北上しても、俺は一人残って最後まで戦い抜いた。
それを恩に着せる心算など更々無かったが、松平容保公を始め藩の重鎮達にはとても感謝されたのだ。
だがしかし、この役人共は戦いが終わった後も直参であるという立場に甘え、碌に働かなかったと俺も記憶している。
己の愚かさを棚に上げ、その癖他人を僻むなど……熟々腐っている訳だ。
せめてその邪な感情を俺本人に打つければ良いものを、所詮敵わぬと分かっている故に……
自分達より弱い者、そして俺の何よりも大切な存在を疵付けたのだ。
三人の役人が俺の留守中にこの家を訪れた時、その不穏な空気を見咎めた内儀は当然慌てて止めに入ったらしい。
役人共は時尾に
「お前の夫を今の立場に居られなくするのは簡単だ。
直ぐにでも免官にして藩を追い出してやる。
夫が大事なのであれば大人しく俺達に従え。」
と、身体を求めたそうだ。
そんな馬鹿な話があるかと時尾を護ろうとした内儀に対しても理不尽な脅しは行われた。
「俺達に逆らう様なら、お前達も此処に居られなくしてやるぞ。
この集落の全員を路頭に迷わせてやったっていいんだ!」
その余りにも横暴で非人道的な脅迫を聞いた時尾は、あっさりと役人共の下卑た要求を受け容れたのだ。
きっと時尾は、俺の事は勿論……
隣家の夫婦も、この集落の住民も、全てを護りたかったのだろう。