第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
「……時尾から離れろ。」
激昂する事無く、だが抑え切れない怒りを孕んだ俺の物言いに、男達はおずおずと立ち上がり洋袴を整え始めた。
その後、時尾の身体に醜い痣を着けた男が下衆な笑みを浮かべて俺を指差す。
「お前が悪いのだ、斎藤!
壬生狼上がりの人斬りの癖に、
俺達と同等の心算で居やがって!
生粋の会津藩士、松平容保公直参の俺達とお前とでは格が違う!
お前は俺達に傅く立場だろうがっ!
俺達が上官に掛け合えば、
お前なんか直ぐにでも免官にしてやれるんだっ!」
男はそう叫ぶ間中も笑みを消す事は無かったが、それは圧倒的強者を前にして怯え諂う野良犬そのものだった。
そんな下らない僻みで時尾を穢したと言うのか……。
「だからお前の女房を俺達で可愛がってやったんだよ!
壬生狼のお前にはこんな上等な女房は勿体ねえ!
それにな……無理矢理じゃねえぞ。
この女も私の身体に情事の痕跡を残さないと約束してくれるなら…って
俺達を受け容れたんだっ!」
時尾がそう願ったというのに……
貴様は時尾の白く美しい身体にあの薄穢い青痣を残したのだな。
俺の左手がじわじわと腰の刀に伸びている事に、調子に乗った男達は気付かない。
「健気じゃねえか!
お前には知られたくないと耐える女を抱くのは
堪らない程に滾ったぜ。
一度きりにしてやろうと思ってたのによ……
具合が良過ぎて、何度も抱かせて貰った……」
そして……唐突に訪れた静寂。
今の俺が見つめているのは…………
時尾の周りに転がる三体の骸だった。