第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
時尾の身体を気遣う日々が続く。
だが、あれ以来は特に変わった様子も無く、相変わらず時尾は俺の為に良く働いてくれていた。
時尾の体調を気遣い俺にも炊事を任せてくれと何度も伝えたが、時尾は「私がしたいんです」と笑顔でさっさと済ませて仕舞うのだ。
本当に良く出来た妻だと思う。
そんな時尾と添い遂げられている自分が、この世の中で一番の果報者だと思える程に。
その日、職務中に出張った先で「いつも世話になっているから」と、絞めた軍鶏を一羽貰った。
滅多に手に入らぬ貴重な軍鶏肉は、滋養が有り精も付く。
是非時尾に食わせてやりたい。
今夜は軍鶏鍋にするか……。
しかし時尾に軍鶏を捌けるのだろうか?
今の内に一度家へ戻り、俺が簡単に捌いておいた方が善いな。
時尾の喜ぶ顔を思い浮かべ、自分でも呆れる程に心を弾ませて俺は自宅へ足を向けた。
逸る足取りで隣家の前を横切った時、内儀が飛び出して来て俺の行く手を遮る様に立ち開かる。
「斎藤さん、どうしたんだい?
今日は随分と早いお帰りだね?」
「出先で軍鶏を頂戴したので
先に捌いておこうかと。」
「ああ、いいねぇ!
今夜は軍鶏鍋かい?」
「ええ、そのつもりです。
では……」
軽く会釈をし再び歩き出そうとした俺に、内儀は不自然な事を言い出した。
「私がさ、捌いといてやるから!
ほら、斎藤さんは仕事に戻った方が……」
内儀は笑顔であったが、その目は誤魔化し様も無く泳いでいる。
………何か可笑しい。
何故こうまでして俺を引き留める?
俺を家に帰らせたく無いのだろうか?
家に何がある?
家の中で何が起こっている?
……家の中には時尾が居る筈だ。