第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
「時尾ちゃんはね、
ちょっと具合が悪かったらしくて。
私が気付いて家で休ませてただけなんだよ。
一人で寝かせとくのも心細いだろ?
家に来れば私が見ててやれるしさ。」
言われてみれば確かに時尾の顔色は頬に赤味も無く、いつもにも増して白い。
「大丈夫か?
歩けるのか?
何所か痛むか?」
時尾の身体を摩りながら矢継ぎ早に問う俺に、時尾は少しだけ困った様子で頬を緩ませる。
「大丈夫ですよ。
本当に大した事じゃ無くて、
ちょっと眩暈がしただけなんです。
お隣の奥さんにお世話して頂いて、
もうすっかり良くなりましたから。」
そう言って内儀に向かい丁寧に頭を下げる時尾。
それに併せて俺も
「家内が厄介になって申し訳無い。
この礼はまた改めて。」
深く頭を下げた。
「礼なんかいいんだよぉ。
時尾ちゃん、無理しちゃ駄目だからね。
今日はこの男前な旦那に甘えちまいな。」
からからと笑う内儀の温かい心遣いが心に沁み入る。
もう一度小さく頭を下げて「では、これで」と時尾の身体を支えつつ歩き出した時……
「斎藤さん!」
内儀が大きな声で俺を呼び止めた。
先程の穏やかな物言いとは打って変わった凄味を帯びた声色に何事かと振り返って見ると、内儀は何故か苦悶に満ちた表情で俺を見据えている。
「……何か?」
「………いや、何でも無い。
只さ……
時尾ちゃんをちゃんと見ててやっておくれよ。」
その不自然な態度を不審に思いながらも俺が小さく頷くと、内儀は何かを吹っ切る様に踵を返し自宅へ戻って行った。