第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
それからも穏やかに日々は過ぎて行った。
言い換えて仕舞えば退屈だとも言えるこの毎日が、俺に取っては何よりの贅沢であったのだ。
『敵も味方も数え切れん程斬り殺して来た。
ならば俺もいつか戦いの中で死ぬのだろう。
……それが因果と言うものだ。』
そんな風に達観していた俺は、一体何処に消えたのだろうか?
まさかあの頃の自分が、後に此れ程迄に平穏な人生を歩めるとは……などと嘲笑が漏れる。
ああ……何もかも全て、時尾の存在故なのだ。
「今帰った。」
毎日繰り返す挨拶。
だが、その日は時尾の返事が無かった。
「……時尾?」
いつもであれば勝手場で夕餉の支度をしている時刻であるのに、その勝手場に時尾の姿は無く、竈には火も入っていない。
今日は出掛けるような事は言っていなかったが……。
時尾が俺に何も告げずに家を空けるとは考えられない。
………長州に居る両親の身に何かあったと便りでも来たのか?
いや、そうであったにしても時尾一人で出掛けられる訳が無い。
必ず俺の帰りを待っている筈だ。
それとも……過去の俺を恨んでいる輩の仕業か?
新選組三番組組長、斎藤一への報復として時尾を拐った?
だがそれも無茶な推測だ。
俺への恨みを抱く様な奴等は既に生きている者が殆ど居ない。
喩え生き延びていたとしても、今更態々こんな最果ての地まで追って来るとは思えん。