第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
俺は伊勢津藩主、藤堂高猷の落胤だ。
真実かどうか俺に知る術はねえけど、餓鬼の頃からそう言われて育って来た。
自分の出自を生涯詮索しない事を条件に充分な金子を与えられ、不自由無く好き勝手生きて来たんだ。
俺が名刀上総介兼重を持っているのだってそう言う理由からだ。
親子の名乗りを上げちゃいねえが、俺の父親は一国一城の殿様だ。
当然俺と同じ血を引く子供が居る事なんて分かり切ってた。
でもそいつ等を兄弟なんて考えた事はねえ。
俺は俺……一人きりだ。
此れからだってずっとそうだと思ってた。
それがまさか、こんな風に出会っちまうなんて…。
そりゃ一緒になれる訳がねえよな。
兄と妹じゃ……な。
俺はくつくつと笑い出していた。
そして笑ったまま優里を睨み付けて問う。
「お前……知ってて俺に抱かれたのかよ?」
優里の肩がびくんと跳ね上がった。
「面白かったか?
何も知らない俺が、自分に夢中になって行く様を見るのは
愉しかったか?」
「違うっ!
そんなんじゃ……」
「何が違うんだよっ!」
初めて見せる俺が激昂する姿に優里の全身は固まった様だ。
「いきなり私は妹です…なんて言われて
はい、そうですかって納得出来る訳ねえだろ。」
俺がじりじりと近付いて行くと、優里は腰を下ろしたままぎこちない動作で後退る。