第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
どくり…と心の臓が締め付けられ、手足が冷えて行くような感覚が訪れる。
何も言えないままの俺と優里を気遣うように一君はゆっくりと言った。
「俺には詳しい事情は分からぬ。
只、どうしても平助には会えないと言い張るこの娘を
それならそれで筋を通すべきだろうと説得し連れて来た。
……後は二人で話し合う事だ。」
そのまま部屋を出て行こうとする一君は一度だけ振り返り……俺を諭す。
「平助……落ち着いて話を聞いてやれ。」
そして部屋には俺と優里だけが残った。
「………座れば?」
俺がやっとの思いで絞り出した言葉がこれだ。
それを聞いた優里は、崩れ落ちる様にその場にぺたんと腰を下ろした。
「………約束したのに……」
虚ろな目をした優里が突然喋り出す。
その視線は何処を見るでも無く空を彷徨っていて、まるで独り言だ。
「屯所に行かなくて、ごめんなさい。」
「……………。」
「黙って居なくなって……ごめんなさい。」
「………優里?」
「…………ごめんなさい。」
優里には俺の声が聞こえていないのか?
俺は再度、力強く優里の名を呼ぶ。
「優里!」
その時、初めて優里が俺の顔を見た。
そして苦しそうに顔を歪めた優里の口から、一番聞きたく無かった言葉が吐き出される。
「私の父は…………藤堂高猷です。」
ああ………そう言う事か。
優里は………
腹違いの………
俺の………
………………妹。