第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
「お前っ………どうしてっ…?」
飛び掛からんばかりの勢いで立ち上がった俺を制した一君が
「待て、平助。
先ずは俺から話す。」
そう言って優里を更に促しながら部屋に入って来た。
優里は俺の顔を見る事もせず、おどおどと落ち着かない様子だ。
俺だって聞きたい事が有り過ぎて、じっとなんかしてられねえ。
それでも何とか自分を抑え込んで一君の言葉を待った。
「俺は最初からこの娘の纏う空気に違和感が在った。
只の町娘では無いと……そう感じた。」
一君は坦々と話し出す。
「飽くまでも俺の勘だ。
そんな物で平助を惑わせる訳には行かぬと思い、
俺は単独でこの娘を探した。」
一君も優里を探してくれて居たなんて知らなかった。
それには驚いて感謝もするけど…ごめん、今はもっと他に聞きたい事が在るんだ。
「………何処を探したの?」
そう問う俺の声は震えていた。
「京屋敷を隈無く廻った。」
京屋敷………?
……って言う事は…
「優里……お前、武家の娘だったのかよ?」
俺が聞いても相変わらず優里は俯いたままで何も答えない。
それが逆に肯定しているんだと思った。
確かに武家の娘なら俺みたいな男と簡単に夫婦になれる訳がねえ。
既に許嫁だって居るかもしれねえしな。
でもだからって……何故何も告げずに姿を消した?
大体最初に声を掛けて来たのは優里の方だろ?
……何故?……どうして?
俺の頭の中を疑問符だけがぐるぐると回って、何を言えば良いのか分からねえ。
そんな俺の動揺を察したのか、一君がまた意を決した様に話し出す。
「各藩邸を廻って、俺が漸くこの娘を見付けたのは……」
そこで言い淀んだ一君を俺は焦れて問い詰めた。
「……何処?」
一呼吸置いた一君の口から、信じられない答えが告げられた。
「伏見の伊勢津藩………
藤堂藩邸だ。」