第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】
そんな風に思ってくれているんだと鼻の奥がつんと痛む。
声を出したら泣き出して仕舞いそうで、くっと唇を噛む私の背中を原田さんは優しく擦ってくれた。
「大体だなぁ……
原田みてえな絶倫野郎の相手をさせられるなんて
そんな小さな身体のお前が気の毒でな。」
呆れた様に溜息を吐く土方さんに向かって
「そりゃ酷え言い種だな、土方さん。」
原田さんも苦笑を漏らす。
そして原田さんは近藤さんへ顔を向けて言った。
「それで……どうだった、近藤さん?」
「ああ、何も問題は無かったよ。」
何の話だろうと私が小首を傾げると、再び近藤さんの優しい視線が注がれる。
「さん……
君は暫く此処で暮らしなさい。」
「えっ……?」
私は心底驚いて身を乗り出した。
だって、そんな事が出来る筈が無い。
島原の遊女が年季明けでも身請けでもなく大門の外に出られるなんて有り得ない。
大体、見世の主人が許すとは思えないし……
私が考えている事を悟ったんだろう。
近藤さんは柔らかな声色で話し出す。
「原田君から君を此処で預かりたいと相談されてね。
さて、どうするべきかと考えた。
有り難い事に私とトシは先日幕臣に引き揚げられたのだが
折角の機会だからその力を存分に使わせて頂いたよ。
君の見世の主人に一寸『丁寧』に『お願い』した所、
『快く』さんを我々に預けてくれてねぇ……」
近藤さんの隣で、土方さんは肩を揺らしてくつくつと喉を鳴らしていた。
この人達が私の為に何をしてくれたのか、全部を聞かなくても分かる。
嬉しくて嬉しくて……でもやっぱり私にはそこまでして貰う価値など無いんだ。