第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】
『新選組』
その言葉を聞いた銅鑼息子は大きく舌打ちをしたものの、情けない程あっさりと私を突き放してそそくさと逃げて行った。
「…大丈夫か?」
原田さんが直ぐに私の肩を抱いて支えてくれたけれど、がくがくと震える身体と吐き気を抑える事が出来ない。
あの穢らわしい銅鑼息子に辱しめられたからだけじゃない。
原田さんも新選組隊士だと知ったからだ。
自分と同じ新選組隊士に抱かれていたと分かったら沖田さんはどう思うだろう?
勿論私が遊女である以上、そう言った可能性だって考えているかもしれない。
私が思っているよりも、沖田さんにとっては取るに足らない事なのかもしれない。
所詮、そんな女なのだから…と、思われているのかもしれない。
それでも私は、沖田さんを裏切って仕舞った様な気がして自分の穢さに絶望していた。
「顔色が真っ青だぞ。」
心配そうに歪んだ原田さんの整った顔が私の顔を覗き込む。
「大丈夫……ですから……」
この人の側に居ちゃ駄目だ。
こんな所を沖田さんに見られでもしたら……
一人で立っている事も出来ない癖に原田さんから離れようと身を捩ってみたけれど
「駄目だ。
直ぐにでも倒れちまいそうじゃねえか。」
原田さんは一層強く私の身体を抱えた。
「送って行ってやるから見世に戻るぞ。」
見世に戻る………
「嫌っ……」
「おい、?」
「嫌だ!
……嫌あっ!」
戻りたくない。
また見知らぬ男に抱かれるなんて、もう嫌だ。
銅鑼息子に触れられた感覚が蘇り全身が粟立つ。
沖田さんに愛して貰ったこの身体を、また滅茶苦茶に弄ばれるなんて嫌だよ!
助けて、沖田さん!
激しく身を捩って原田さんの身体から離れた私はその場に膝から崩れ落ち、遂には胃の中の物を吐き出して仕舞う。
びしゃびしゃと音を発て飛び散る吐瀉物に塗れながら、もうこのまま死んで仕舞えたら…と視界も滲んだ。
すると原田さんは
「……一寸の間、我慢出来るな?」
と、私の身体を躊躇無く横抱きにする。
「止めて……汚い…から……」
「汚くなんかねえ!
良いから大人しくしてろ。」
そのまま早足で歩き出した原田さんの逞しい腕の中で、私は直ぐに意識を手放した。