第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】
気が付けば私と男の周りを大勢の野次馬が取り囲んでいた。
男はその状況に一層興奮したのか、着物を剥ぎ取らん勢いで更に激しく私を嬲る。
それでも周りに佇む人間は、誰一人として私を助けようとはしなかった。
女達は眉を顰めて早々に立ち去ったが、男達は下卑た笑いを浮かべて私が抵抗する様をもっともっとと明白に愉しんでいる。
私の身体を弄ぶこの男も、それを然も愉快だと見ているだけの面々も、全てが悍ましく感じ嘔吐して仕舞いそうになった時、
「何やってんだ?」
野次馬の輪を掻き分けて一人の男がゆっくりと歩み寄って来た。
「その娘、嫌がってんじゃねえか。
止めてやれよ。」
激昂するでもなく穏やかに語り掛けて来る様が余計に、その人の怒りをびりびりと伝えて来る。
それは銅鑼息子も感じたみたいだ。
恐れから声を震わせつつ、それでもその人に噛み付き出す。
「お前には関係無いだろう?
この女は僕の物だ!
口を出すな!!」
「いや……違うな。
俺はその娘を買った事がある。
その娘は未だ誰の物でも無い筈だ。」
そう言われて、その人へ目を向けて見れば……
「貴方は…」
そう、私が沖田さんに負けず劣らずの美丈夫だと思っていた客だった。
見た目だけで無く、この人も私の事を気遣いながら抱いてくれる珍しい客だったんだ。
「よお、。
久し振りだな。」
その人は私を安心させる様ににっこりと微笑んでから、今度は銅鑼息子に鋭い視線を向ける。
「余り偉そうに言いたかねえが……
俺はこの京の治安を護る立場でもあるんだ。
だから、しょっ引かれたくねえなら
今の内にその娘を離した方が利口だぜ。」
「はああ?
お前、何言って……」
「俺は、新選組十番組組長……
原田左之助だ。」