第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】
「その様子だと僕はやっぱり随分と酷い言われ様なんだろうね。
僕は唯……自分の仕事をしているだけなのにな。
確かに言われてるだろう話は嘘じゃ無いけど。」
何かを諦めたみたいに儚げに微笑む男の姿に私の胸は締め付けられる。
少なくともこの男は私の身体を気遣い、大切に抱いてくれた。
そして私に初めての絶頂を与えてくれて……
私の事を『好き』だと言ってくれた。
例えば、この人になら今この瞬間に斬られたとしても幸福を感じたまま死ねるんじゃないか……
そう思った。
「ねえ、ちゃん。
………僕が怖い?」
男は指先で私の唇を擦りながら子供が母親に甘える様に問う。
だから私はにっこりと笑って答えた。
「いいえ。
私も貴方の事が好きですよ。
……沖田さん。」
それから陽が昇りきるまでずっと二人で話をした。
布団の中で戯れ合いながら、お互いにくすくすと笑って、下らない話を一杯一杯した。
こんなに愉しいと思える時があるなんて、私は生まれて初めて知ったんだ。
愉しい時間はあっという間だって聞くけど、本当なんだな。
沖田さんは帰り際に
「またちゃんを買いに来ても良い?」
と、満面の笑顔で言ってくれる。
何故か『買う』という響きに視界が滲んで仕舞ったけれど、私はそれを隠して
「はい。是非に。」
と、微笑んで沖田さんの背中を見送った。