第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】
二人で布団の中に潜り込んで、向かい合わせに寝転がる。
話すって……何を話せば良いのだろう。
何を話せば男は悦ぶのだろうか……なんて考えていると男はにこにこと笑いながら
「ちゃんの身体は温かいね。」
私の全身を癒やす様に擦った。
そして唐突に余りにも普通で、余りにもこの場には不釣り合いな事を言い出す。
「ああ……そう言えば僕、まだ名乗ってなかったね。」
私はこれ迄、客の名前なんか気にした事無かった。
それにこんな関係に名前なんて必要じゃないし……
「僕は、沖田総司と言います。」
沖田……総司……?
「……ええっ!?」
私は両手で男の身体を押して自分との距離を拡げた。
沖田総司……
それはこの島原に閉じ込められている私ですらが何度も耳にした事のある名前だ。
新選組の一番組組長。
恐ろしい程に剣の腕が立ち、一度刀を交えれば生きて逃れられた者は居ない。
笑顔のまま、まるで息をする様に人を斬る。
剣客集団新選組、最強の人斬り。
客や遊女仲間から真しやかにそう語られる噂話を聞いて、どれ程に屈強で恐ろし気な男なのだろうと思っていたのに。
それがまさか、こんなに穏やかで綺麗な男だったなんて……
「ちゃん……
もしかして僕の事知ってるの?」
この男が本当にあの沖田総司だとしたら、怒らせたり機嫌を損ねたりする訳にはいかないと私はどう答える可きか迷って、結局は無言で小さく頷くしか出来なかった。