第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
慶応四年五月。
俺は上野の森の中に居た。
既に日も落ち薄暗い中、大木の根元にぐったりと座り込む男に近付く。
「よお………久し振りだな。」
俺に気付き顔を上げたその男はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
「こんな所で何してんだ、不知火?」
「手前ェこそ、何してやがる。」
「ははっ……俺は少し休んでるだけだ。
新政府軍の奴等に一寸ばかり梃摺っちまってな。」
「ふん……原田らしくもねェ。」
俺の嫌味に原田はまた申し訳無さそうに笑う。
その弱々しい笑顔から原田の脇腹に視線を移せば、そこからは夥しい血が流れていた。
俺も原田の傍らに屈んで暫くは無言で居たが、原田の苦し気な呼吸音に居た堪れず口を開く。
「手前ェが仕留め損なった新政府軍の奴等は俺が片付けておいた。」
僅かに驚いた顔をした原田は
「そりゃ、すまねえ。
しかし長州に就いてた不知火が俺の為に裏切ってくれたとはな。」
そう不敵に言った。
「別に原田の為じゃねェ。
俺が新政府軍の遣り方に辟易しただけだ。」
「ああ……そうかよ。」
まあ、そんな風に言ったって原田には全てお見通しだろうな。
「なあ、原田……これからどうすンだ?」
「………会津に行く。」
「会津に?」
「ああ、約束したんだ。
途中で新選組を投げ出しちまった俺だけどよ、
近藤さんと最期まで一緒に戦うって約束してたんだ。
だから近藤さんが逝っちまった今、
その意思を継いで戦ってる土方さんや斎藤の元に
駆け付けなきゃなぁ………」
「…………そうか。」
そして原田は遠慮がちに問うて来る。
「彼奴は……………
は………元気か?
幸福に生きているか?」
俺は一つ鼻で笑って、以前と同じ様に挑戦的な口調で答えた。
「さあ……どうだろうなァ?
そいつは本人に聞いてくれや。」