第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
「いやぁ……お見事お見事。
流石、魁先生だな。」
店の入口に背中を預けた左之さんは、腕を組んでにやにやと笑っていやがった。
「何だよ、馬鹿にしてんのか?」
「そんな事ねえよ。
誉めてやってんじゃねえか。」
畜生……それが馬鹿にしてるって言うんだよ。
「大体さあ、何で左之さんは見て見ぬ振りなんだよ。」
「あんな小競り合い、一々相手にするまでもねえだろ。
俺達は隊務中でもねえんだし。」
「だからって………」
「まあまあ……でもそういう所が平助らしくって俺は好きだぜ。」
そう言って左之さんは笑いながら俺の頭をぽんぽんと叩いた。
………やっぱり馬鹿にしてる。
「魁先生のお陰で静かになった事だし……呑み直そうぜ。」
店の中に戻って行く左之さんの背中を睨み付けていると、突然背後から声を掛けられる。
「あの……」
その声に振り返ると俺の直ぐ後ろに女が立っていた。
おずおずと上目遣いで俺を見上げるその女の可愛らしい容貌に、俺は固まってしまう。
「貴方が……藤堂平助さん?
……新選組の。」
「そ……そう…だけど……。」
そしてそのまま……お互いに無言で俺達は見つめ合っていた。