第3章 昨夜泣いた君と【薄桜鬼】
「ちょっ……だから、二人共落ち着けって。」
酔っ払って掴み合っている二人の男の諍いを、俺は収めようとしていた。
偶々左之さんと呑みに来た店で、突然隣の席に居た奴等が揉め出したんだ。
このままじゃ店に迷惑になるからと何とか男二人を店の外に連れ出したまでは良かったが、それでも酔いも手伝ってか二人の諍いは激しくなるばかりだ。
今にも殴り合いそうな二人の間に割って入って収めようとするものの、身体の小さな俺は揉みくちゃにされていた。
「もう本当に止めろって!」
「五月蝿えぞ、小僧!
餓鬼は引っ込んでいやがれ!」
そう言って弾き飛ばされた俺は、餓鬼扱いされた事が俄然頭に来た。
「手前え等……俺を誰だと思ってんだ。」
立ち上がり男達を睨み付けながら叫ぶと
「ああ?」
二人同時に声を上げ、不審な目を俺に向ける。
「俺は新選組八番隊組長、藤堂平助だ!
どうしても喧嘩がしてえって言うなら俺が相手になってやる。
懸かって来いよ!」
大声で啖呵を切ると男達の顔が途端に青ざめ
「……新選組。」
と、呟きながら退き始めた。
「どうした?
ほら、来ねえのか?」
身振りも加え更に煽ってやると
「あ……いや……」
「……すんません。」
気不味そうにへこへこと頭を下げて、二人共そそくさと逃げ出した。
慌てて走り去る男達の背中を目で追いながら
「全く……何なんだよ。」
鼻を鳴らして呟いた俺の背後から左之さんが声を掛けて来る。