第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
取り敢えず長州に在る俺の本拠へ向かいつつ、この先の長い旅路を鑑みて俺は早目に宿を取った。
部屋に通されと二人、漸く人心地着いた矢先に入口の障子戸が勢い良く開け放たれる。
何事かと目を向けて見れば、其処に立って居たのは……風間千景だった。
「……邪魔するぞ。」
そう言いながらも全くそうは思っていないだろう態度で、風間は無遠慮に部屋に入って来やがった。
「何だよ、風間。
俺に何か用かァ?」
俺が相変わらずの挑発的な物言いで問えば、風間も嘲笑を浮かべて答える。
「いや、最近は禄に俺の前に姿を見せないお前を
叱咤してやろうと思ったのだが…」
「はァ!?
ふざけんじゃねェぞ、風間。
俺を天霧と一緒にすンな!
手前ェに逐一付き添ってやる義理はねェ!」
「ふん……まあ良い。
そんなものは建前だ。
何よりもお前が『人間の女』に執心だと聞いてな……
その女の顔を見に来たのだ。」
俺達の会話を、意味が分からないと言った風にきょとんとして聞いているの前に風間は片膝を付いた。
「これが不知火が見初めた女か?」
揶揄う素振りを隠しもせず、の顔を見つめる風間。
そんな風間に今度はの方が問い掛ける。
「あの……『人間の女』って……?」
その問いには風間も僅かに驚いた様子だ。
「何だ……不知火。
自分の正体を証してはおらぬのか?」
「あー……
別に隠してたワケじゃねェけどな。
伝える機会が無かっただけだ。
別にバレたって構やしねェよ。
それでが駄目だって言うならそこまでの話だ。」
不敵に笑ってそう言う俺を見て「ふん…」と鼻を鳴らした風間は、再びと向き合った。