第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
「父は……私より御家が大事な人だった。
父にとっては実の娘よりも御家を継ぐ為の弟の方が余程……」
そりゃそうだよな。
だってずっと無言で耐えて来た訳じゃねえだろう。
父親に言えなければ母親にだって……
だが父親がそういう男なのであれば、母親も禄に当てにならねえ事は容易に想像が付くってもんだ。
誰も頼れねえ……一人で耐え続けるしかねえ……
そりゃ生き地獄ってもんだよな。
「結局は逃げて来たんだよ。
無理矢理に近藤さんへの用事を作って、入洛して仕舞おうって。
兎に角、弟から……あの家から離れたかった。
父も母も薄々は勘付いてたからね、
私が入洛するって言っても引き留めもしなかったよ。
弟は苦虫を噛み潰した様な顔をしてたけど……。」
笑顔を浮かべて語り続けるが、俺には号泣している様に見える。
その見えない涙をどうにか拭ってやりたくて、俺はの小さな身体をそっと抱き寄せた。
「……確証は無かったんだ。」
次には不知火が悔しそうに呟く。
「の実家を探り当てて、養子の弟が居る事も分かった。
其奴がまた胡散臭ェの何のって……。
に何か悪さをしてやがったってのは気付いたんだが、
それが一体どの程度のモンなのかまでは分からなかった。
さっき……に突っ込むまでは……。」
ああ……だから不知火はが生娘で無い事を 何でも無い様に、そんなのは大した事じゃ無いと言わんばかりの態度を取ったんだ。
生娘で有ろうが無かろうが、不知火も俺もが只管に愛おしい故に抱きたくて仕方無えんだって伝えてやりたかったのかもな。