第2章 徒桜【るろうに剣心】
麻痺して動かない身体を持て余し、俺は翠と出会ってから失うまでの全てを思い返した。
『…………お前にも居るのではござらんか?
お前に生きて帰って欲しいと望んでいる人が。』
先程聞いた抜刀斎の台詞が頭の中で何度も反芻され、遂に俺は声を殺して笑い出した。
「抜刀斎……お前は俺に生きろ…と言うのだな。
もう……翠は居ないと言うのに。」
全てを失い、抜刀斎を倒す事だけを支えにしてここまで生きて来たこの俺を、完膚無きまでに叩きのめしておいて『生きろ』とは……
「とことん……酷い男だ。」
俺の帰りを待っている人間など誰一人居ない。
帰るべき場所も…………
あの桜。
江戸城中奥に在ったあの老桜はどうなったのだろう?
無血開城で城を後にして以来、見ていない。
今もまだあの場所で、俺達人間の儚い一生を滑稽だと笑っているのだろうか?
………それを確かめに行くのも悪くない。
あの老桜を見上げながら、自分の行く末を決めるのも良いかもしれない。
あの日の翠の様に……。
俺にはまだ、『帰るべき場所』が在ったのだ。