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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第2章 徒桜【るろうに剣心】


「翠……。」

頭の中で出した結論を伝えるべく翠の名を呼んだが返事は無い。

眠ってしまったのかと身体を離して翠の様子を確かめた時、漸く俺は異変に気が付いた。

翠の呼吸が異常に浅く、俺に抱かれているのにも拘わらず手先も足先も氷の様に冷たくなっている。

「翠……?
 どうした……翠っ!」

うっすらと瞼を上げた翠の身体を激しく擦りながら、俺は思い当たる一つの可能性を口にした。


「お前………何を飲んだ?」


「父に…渡された薬を……」

「薬?」

「最後の手段として…慶喜公に飲ませるように…と……」

それは薬では無い。

そんな事は翠だって理解していた筈だ。

「徐々に血の巡りを悪くして……
 一刻程で鼓動が……止まる…そう…です。」


……鳥兜か。

解毒の知識に長けた俺でも、鳥兜が相手では手も足も出ない。

解毒の方法が無いのだ。

それにもう呂律も怪しくなっている翠の状態を見れば、既に手遅れである事は明白だ。

「………っ…馬鹿な事を……。
 何故、お前が飲んだ?」

俺は翠の手足を何とか温めようと必死で擦り続けた。

「だって……
 企みの結果がどうであれ……もう………私は……
 外の世界に……戻れない…から…」

翠の瞼が段々と閉じられて行く。

「もう……蒼紫様に……会えない…なら……
 だから………」

「翠、気をしっかり持て!
 翠っ!」


冗談じゃない。

こんな風に終わって堪るか。

俺は翠の全身を包むように抱き上げるものの、もうその身体は完全に弛緩し冷たくなり始めている。
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