第14章 God bless you【ドリフターズ】
足元が悪いからと山口少将に手を引かれ甲板に出た私の視界一杯に広がるのは、真っ赤に染まった空だった。
其処では目を疑う様な光景が繰り広げられている。
火炎を噴き出して飛び交う十数頭の竜。
そしてその間を擦り抜けながら飛んでいるのは紫電改だ。
「………直さん!」
紫電改は竜の吐く火炎を極々で躱し、着実に竜を撃墜して行く。
一手間違えれば紫電改も炎に包まれて仕舞うだろう。
「『あれ』が出張って来ると、対処可能なのは紫電改だけでなぁ。
貴女の御主人に頼り切りになって仕舞うのだよ。
うんうん…相変わらず菅野大尉の飛行技術は素晴らしい。
どうだい?御主人の勇姿は?
我が大日本帝國の創り出した『最高の戦闘機』と『最高の戦闘員』……
何度目にしてもゾクゾクするじゃあないか。」
この人………何を言っているの?
どうしてそんな愉しそうに高揚した目で紫電改を見上げているの?
私の額にはじっとりと脂汗が滲み、痛い程に動悸がする。
段々と呼吸も荒くなって息苦しくて堪らない。
そして、紫電改に撃墜され海に浮かぶ竜の躰が炎を上げればもう限界だった。
燃える空、水面を走る炎………
忘れられる筈が無い。
私がこの世界に飛ばされる直前に見た光景……
昭和20年3月10日の東京。
私は膝から崩れ落ち、甲板に倒れ込んだ。
意識を失う瞬間に「何故、殿が此処に!?」と、私に駆け寄る晴明さんの姿を目にした気がする。