第2章 徒桜【るろうに剣心】
暫くの余韻の後、漸く翠との繋がりを解き仰向けに寝転がった俺は、片腕でしっとりと湿った翠の身体を抱き寄せる。
翠は何も言わず、俺の胸に頬を擦り寄せて来た。
これからどうすれば良いのだろう?
未然に防いだとは言え、翠は慶喜公の暗殺を企てた罪人だ。
此のまま何も無かったで済ませられる筈が無いのは百も承知だ。
御庭番衆の御頭としての俺はどうすれば良い?
ただ翠が愛おしいだけの男として俺はどうすれば良い?
幾ら考えても答えが出ないまま、俺は翠に問い掛けた。
「……父親を恨んでいるか?」
その問いにぴくりと身体を揺らした翠は、少しの間の後落ち着いた声で返答した。
「あの人は……実の父ではありません。」
「何?」
衝撃の告白に心底驚いた俺は翠の顔を覗こうとしたが、翠はそれを避けるように一層強く俺の胸に顔を埋めた。
不安を取り除き話の続きを促すようにそっと後頭を抱えてやると、大きく息を吐いた翠がゆっくりと語り出す。
「私の生まれた集落は酷く貧しくて……
幼い弟妹が居た私は九つの時に売られる事になりました。」
その時の心境を思い出したのか、翠の肩が僅かに震えていた。
「遊廓の人買いに引き渡されようとしたその時に
偶々、集落に逗留していたあの人が
私を買ってくれたのです。」
俺は震えが治まらない翠の身体を強く引き寄せる。
「私は何をされても文句の言えない立場でした。
だけどあの人は……
『我々夫婦には子供が居ないから丁度良い
こんな愛らしい娘が出来るなんて好機だった』と
豪快に笑ってくれた。
その言葉通りに私は何一つ不自由無く、実の娘……
いいえ、それ以上に大切に育てて貰いました。」
蒲生君平はそのような男だったのか。
そんな男が何故、翠にこんな仕打ちを……。
俺の考えを覚ったように翠は話を続ける。