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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第12章 密か【イケメン幕末】


「えー……
 どうして土方さんなんですかぁ?」

不貞腐れた態度を隠す事も無く沖田殿が問えば、土方殿も不敵ににやりと笑って答える。

「考えてもみろよ、総司。
 こいつはあの野暮天王の近藤さんと、
 男の形して新撰組に乗り込んで来た女の娘だぞ。
 絶対に呑気者で尚且つお転婆だ。
 だったらせめて俺に似せて、
 確りと生きられる様にしてやらなきゃな。」

「土方さんに似ちゃった女の子っていうのも
 どうかと思いますけどねぇ……。」

そんなお二人の遣り取りをくすくすと笑って眺めていると

「っーーーーー!」

私の名を叫びながら廊下を駆ける足音が。

ぱしんっ…と勢い良く障子戸が開き、ぜえぜえと息を切らせて部屋に入って来たのは……勇さん。

お仕事で大坂に出張っていた勇さんが御産の知らせを聞きつけて帰って来て下さったのだ。

その姿に目を向けて見れば、余程慌てて駆けて来たのだろう……

足も袴の裾も泥だらけ。

その泥が手や頬や、髪にまで飛び散っている。

「ああ……、すまなかったね。
 一人で心細かっただろう?」

「いえ……土方殿や沖田殿も居て下さったので。」

「そうか、そうか。」

私の返答を聞いて、勇さんは安心した様に微笑む。

そんな勇さんに今度は土方殿が凄味を帯びた声で問い掛けた。

「おい、近藤さん……
 仕事はきちんと済ませて来たんだろうな?」

「あ……まあ、うん……其れなりに…だな…」

それに対し、おろおろと曖昧に答える勇さん。

「これ、絶対放り出して来てますね。」

沖田殿は肩を竦めて、大袈裟に息を吐いた。


そして頬を上気させて満面の笑みを浮かべた勇さんは私の隣に膝を付く。

「ほら、御父上ですよ。」

私がそっと娘の顔を勇さんに向けると、勇さんの表情は見事な迄に蕩け出した。

「ああ……何と可愛いのだ。
 さあさあ、俺にも抱かせてくれ。」

そう言って勇さんが両手を差し出した瞬間……

「先ずは風呂に入って来い!」
「先ずは風呂に入って来て下さいよ!」

土方殿と沖田殿の怒号が同時に響いた。
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