第12章 密か【イケメン幕末】
湯浴みを終え、さっぱりとした様相で戻って来た勇さんと肩を並べて縁側に腰掛ける。
勇さんの腕に抱かれた娘は一層安心した様にまだぐっすりと眠っていた。
「親を困らせない良い子だ。
俺では無く、に似ているのだなぁ。」
「いいえ。
些細な事にも動じず泰然としているのは勇さんにそっくりです。」
「ははは……
俺達も既に相当な親馬鹿であるな。」
二人で一頻り笑い合った後、勇さんの目が優しく細められる。
「己の人生の中でこれ程迄に愛おしい存在が在ると知ったのは……
二度目だな。
無論、初めてはお前だ……。」
「勇さん……」
私の小さく密かな想いから始まって……この子は生まれた。
だからこの子のこれから先の人生が、良縁や幸運に恵まれて『密』なものであって欲しいと心からそう願う。
勇さんの肩に頭を預けて目を閉じていた私は
「あー……ぅんんっ…」
態とらしい咳払いに、そのお顔を見上げる。
すると勇さんは頬を紅潮させ、意を決した様に早口で語り出した。
「生まれたばかりの娘を抱いて言う事で無いのは分かっている…
に負担を掛けるのも心苦しい…
本当に只の俺の我儘で申し訳無いのだが……」
「……勇さん?」
小首を傾げて問い掛けて見れば、勇さんから注がれる熱い視線とぶつかる。
「次は…息子が欲しいな。
そう遠く無い内に…。」
今度は私の頬が紅潮する番だった。
驚きに目を瞬かせてから微笑んでこくんと頷くと
「ありがとう……。」
艶やかに囁く勇さんの顔が寄せられた。
夕陽を浴びて縁側から部屋の中へと伸びる私達の影は離れる事無く………
それから暫くの間、重なり合ったままだった。
了