第12章 密か【イケメン幕末】
「さん、入っても良いですか?」
部屋の外から沖田殿が声を掛けて来る。
その声は待ち切れないと言わんばかりに弾んでいた。
「はい。どうぞ。」
私は縁側に座り、首だけを振り向かせて答える。
からりと障子戸を開けて入って来た沖田殿はつつつ…と私に近寄り膝を付くと
「うわあ……可愛いなあ……」
大袈裟な程の声を上げ、目を輝かせた。
その目が見つめているのは……
私の胸に抱かれた、三日前に生まれたばかりの娘だ。
ついさっき乳を鱈腹飲んだ娘は満足そうにくうくうと眠って居る。
時折くすんと鼻を鳴らす度に沖田殿は「可愛い」「可愛い」と微笑んだ。
「ねえねえ、さん。
此所、ほらこの目元とか…俺に似てますよね?」
「馬鹿な事言ってんじゃねえぞ、総司。」
その声は庭から此方に向かって歩いて来る土方殿だ。
「土方さんも見て下さいよ。
ほら、此所……絶対俺に似てる。」
「あのなぁ……」
頭を掻きながら呆れた溜め息を吐く土方殿も、眠る娘の顔を覗き込んだ。
「総司に似てる訳ねえだろうが。
俺に似てくれなきゃ困るんだよ。」