第12章 密か【イケメン幕末】
漸く人心地付いたものの、近藤殿と向かい合って座って居ればまた新たな緊張感に鼓動が早打ってしまう。
「俺の所為で負った隼多の傷がどうにも気になってな。
図々しいとは思ったが、訪ねて仕舞ったよ。」
頭を掻きながら豪快に笑う近藤殿の姿に、一層愛おしさが募る。
それなのに私の口から出た言葉は可愛気の欠片も無いものだった。
「私の事は捨て置いて下さいと申し上げた筈………」
言いながら俯いた時、私の髪に刺さった簪がしゃらりと音を発てた。
その音に反応したのだろうか、近藤殿は一つ咳払いをして……
「いや、すまない。
隼多……ではないのだな。
そうして女子の格好をしていれば、女子にしか見えぬのに……
本当に俺は野暮天で情けない。」
「いえ、そんな事は……」
謀っていたのは私なのだ。
近藤殿はその純粋さで私を疑う事もしなかっただけ。
そんな近藤殿に恐縮されるのは本当に申し訳無い。
「としと総司にも随分と呆れられたぞ。
としに至っては
『あんなの一目見りゃ女だってわかるだろうが』なんて
言われて仕舞ってなぁ。」
やはり土方殿も気付いていたのだ。
沖田殿と土方殿の器の大きさには改めて私の方こそが恐縮頻りだった。
僅かな沈黙の後、近藤殿の一際優しい声が響く。
「お前の本当の名を教えてくれないか?」