第12章 密か【イケメン幕末】
そんな風に掻き乱された心を何とか抑えようとしていた頃、その事件は起きた。
私は御暇する為に屯所を出た所で出先から戻られた近藤殿と擦れ違う。
「おお、隼多。
今、帰りか?
気を付けて帰るのだぞ。」
あの酔った日の事など全く覚えていらっしゃらない様子で、これ迄通り屈託の無い笑顔で声を掛けて下さる近藤殿。
今の私にしてみれば、その御心遣いが逆に辛くもあるのだが。
「はい。
失礼致します。」
私も引き攣った様な笑顔を浮かべ、そう応えた瞬間………
「新撰組局長、近藤勇だな。」
聞いた事の無い男の声が響く。
その不穏な響きを含んだ問い掛けに振り返って見れば、薄闇に紛れて複数の影が近付いて来た。
三人……いや、四人は居るだろうか。
その誰もが好戦的な厭らしい笑みを浮かべている。
私が僅かに怯んでも、近藤殿はまるで旧知の知人に声を掛けるが如く優しい声色で話し出した。
「如何にも。
私が近藤勇だが……何方だったかな?
見覚えの無いお顔触れだ。」
近藤殿より一間程手前で足を止めた男達は無言のまますらりと抜刀する。
「……っ。
近藤殿!」
その様相を目にして息を飲んだ私が一歩前へ出ようとするのを、近藤殿は然り気無く制し僅かに口角を上げる。
「俺が幕臣となった祝い……という訳でも無さそうだな。
逆にそれが気に入らん輩共か?
まあ、敵が増える事も覚悟はしていたがな。」
「喧しい!
新撰組など所詮幕府の犬だ。
大人しく犬に徹しておれば良いものを!」
一人の男がそう叫び終えた途端、四人同時に近藤殿へ斬り掛かって来た。
そして知らぬ間に抜刀していた近藤殿は流れる様な所作でその四人を軽く遇う。