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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第12章 密か【イケメン幕末】


「おい、近藤さん。」

その時、遠くの方から近藤殿を呼ぶ声が聞こえた。

土方殿だ。

こんな姿を見られる訳にはいかない。

私は慌てて近藤殿の下から抜け出そうと身を捩る。

ぐったりと私に身体を預ける近藤殿は重くて中々思う様に動けなかったが、それでも何とか身を離したと同時に土方殿が稽古場に入って来た。


「近藤さん………此処か?」

近藤殿の傍らでその身を案じる私の姿に、土方殿は少し驚かれたみたいだ。

私も動揺を押し隠し声を掛ける。

「土方殿……近藤殿は酔って眠って仕舞われました。」

「あー……ったく、しょうがねえな。」

後頭を掻きながら近付いて来た土方殿は

「ほら、近藤さん。
 起きろよ。」

近藤殿の身体を力強く揺すった。

「ああ……としか。
 俺はやるぞ……時代を変える。」

まだ意識がはっきりしない近藤殿は、譫言の如くそう繰り返しながらもその顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。

「分かった分かった。
 ほら、部屋に戻るぞ。」

そんな近藤殿の身体を支えて立ち上がらせた土方殿も満更では無い御様子だ。

自身が幕臣に引き上げられた事が……と言うよりも、近藤殿がこれ程に喜んでいる様を嬉しく思っている様に見えた。

「隼多……だったか?
 面倒掛けてすまなかったな。
 後は俺が引き受けるから、お前はもう帰れ。」

近藤殿の腕を肩に掛けた土方殿は、その場で所在無げに座る私を見下ろすと優し気な声色で言って下さった。

「………はい。」

私は両手を付き深々と頭を下げてから、よろよろと稽古場を出て行くお二人の背中を見送る。

帰らなくては……そう思ってみても、身体中に宿った邪な熱は全く冷めてはくれず、私は暫く身動ぎもせずその場に留まっていた。
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